85年録音のドン・グロルニックの初ソロアルバム。
彼は名プロデューサーでもありLinda Ronstadt, James Taylor, Roberta Flack, Carly Simon, Bette Midlerらポップミュージシャンのサポートなどもしてきた。
発売当初、僕は彼ではなくここでフューチャーリングされているマイケルの演奏が聴きたくて、このアルバムを手に入れた。
実はまだ正式にソロアルバムをリリースしていなかったマイケルの裏リーダーアルバムという意識も巷ではあった。
このアルバムは、ウィンダムヒルというレーベルから出ているが、当時このレーベルは静かで聴き心地のよいアルバムを多くリリースするというイメージがあり、実際、当時のアルバムの印象はそれと大きく違わなかった。
参加メンバーは彼の仲間たち、
Bass:Will Lee
Marcus Miller
Guitar:Hiram Bullock
Jeff Mironov
Drums:Steve Jordan
Peter Erskine
という強力な面々であるにも関わらず「静」「体温の低い」という印象しか残らなかった。
しかし、23年経った今、このアルバムを聴いてかなり印象が異なった。
確かに、曲調こそ静かなれど、この内省的なものに秘められた「熱さ」を強く感じた。
内省的であるという側面でも、もう一つのマイケルの裏ソロアルバムと称されるクラウズオガーマンの「City Scape」よりもマイケルのそれを感じ、よりデリケートなアルバムだと思った。
とにかくドンが書く曲がそれも素晴らしい。
メロディは一度聴けば口ずさめるほど明瞭、シンプルで、その裏に流れるコードは複雑で繊細だ。
彼の演奏面ではマイケルほど全面にこのアルバムでは出てこないが、このアルバムのサウンド全てがドンのサウンドだ。
そして作曲者、プロデューサーならではの、その曲において最もハマりのいいフレーズをいいポイントで演奏する。
彼の作曲したものはよくコンテンポラリーなジャズフュージョンにおいて他のアーティストが取り上げている。(例えばNothing Personalとか)
実はこのアルバムは激しい曲調の曲も収録されているが、それらの曲がアルバムの冒頭ではなく中盤に置かれているのでアルバムの印象がウィンダムヒル的なアプローチになっている。
これはメーカーの意図なのか、彼の意図なのかはわからないが、後にリシースする彼のソロアルバムの「Weaver of Dreams」はブルーノートから、「Medianoche」はワーナーからリリースされているが、前者は硬質なジャズサウンド、後者はラテンといったメーカーの指向にそぐう形のサウンドを提供している。
これは彼自身が有能なプロデューサーだったという一つの証拠かもしれない。
彼は1996年に48歳という若さでこの世を去ることになる。
今の自分の年齢よりも3つしか違わないのだと思うと切なくなる。
彼が亡くなる時、彼の周りの仲間たちの落胆ぶりが目を覆いたくなるほどだった。
彼がまだ存命だったならば、アメリカのジャズシーンはもっと違うものになったのかもしれない。
皆に愛される人は、なんでこんなに早く逝ってしまうのか。。。