2008年03月26日

ALBERT MANGELSDORFF & NDR Bigband / MUSIC FOR JAZZ ORCHESTRA

アルバート・マンゲルスドルフが2005年7月25日に亡くなった。75年間の生涯だった。
彼はドイツ人のジャズトロンボーン奏者で、活動の初期はディジー・ガレスピー、ジョ
ン・ルイスらと共演をするような比較的スタンダード曲を演奏するプレイヤーだった
のだが、次第に個性的な演奏スタイルでヨーロッパのフリージャズの指針となるよう
な演奏スタイルに移行して行った。

一般的にはベース:ジャコ・パストリアス、ドラムス:アルフォンス・ムザーンとの
トリオ演奏を収めた「トライローグ」というアルバムがジャコファンを含め一番有名
かもしれない。そこでも縦横無尽に扱っている「マルチフォニック奏法」(重音)こ
そが彼がトロンボーン界において確立した奏法。
通常、トロンボーンは音(音程)を一つしか発音しないものであるが、彼はその実音
を出しながら声を出したり、その実音と声が干渉し合うことで生じる倍音に含まれる
音も出してしまう。つまり状況に寄っては3つ同時に音を出してしまうのだ。今となっ
ては、この奏法自体はかなりシステマチックにアナライズされてさほど難しい奏法で
はないのだがこれを確立した功績はきわめて大きい。まだCDがなくアナログレコード
しか無かった時代に「トロンボーンサミット」というタイトルの世界各国のジャズト
ロンボーン4人による演奏を収めたアナログがあり、そのなかで一曲ビルワトラスと
マンゲルスドルフのデュオで演奏している曲があるのだがこれが秀逸で、二人でマル
チフォニックを駆使し4人であたかも演奏しているように聞こえる程立体的な演奏を
繰り広げている。彼のソロアルバムはたくさんリリースしているがその度ごとに独創
的で茂樹的なものを創ってきた。中でも大勢のパーカッションとトロンボーンという
編成のものは面白かった。

フリージャズの権化といわれてはいるものの、実際のところ彼の作曲も演奏もきわめ
てポップなメロディアスである。特殊奏法ではあるが決して難解なものではない。な
のになぜ、彼はフリージャズにカテゴライズされていたのか?
それは彼は決してビバップライクなフレーズやコード(和音)進行を使わなかったか
らだと自分は考える。

また彼の凄いところは単音だけ吹いた時もマルフォニックを使った時もきわめて和声
的に聞こえる演奏を出来たことだと思う。単音楽器を演奏しても「和音」を感じさせ
るプレイヤーはきわめて少ないが彼との共演歴をもつサックス奏者、リー・コニッツ
もその一人だと思う。(彼自身も「デュエッツ」というソロアルバムで単音楽器奏者
達と2人だけで演奏している)マンゲルスドルフのユニットにピアノが参加していな
いのは、自分以外の共演者に和音を支配されたくないという意識があったのだろうか?
 遺作となったこのアルバムはNDRBigbandとの共演で全編彼の作曲、編曲ということ
で彼の音楽観、指向が十二分に発揮されている。ここで彼の豊かな和音感覚、リズム
アプローチのセンスの良さが特に光る。トロンボーン一人のみの演奏でもこのセンス
は同様に感じられる。

ここでの作曲、アレンジはまさに現代の音であり、生涯コンテンポラリーのサウンド
の持ち主だったということが証明されている。
和音、リズムともにヴィンスメンドーサ、マリア・シュナイダー、ボブミンツァー達
のサウンドの共通項を見いだすことが出来る。

ちなみにボブ・ブルックマイヤーというマンゲルスドルフと演奏のスタイルにおいて
対極にあるバルブトロンボーン奏者(つまりバップライクなフレーズを多用していた)
も素晴らしい作曲家、編曲家としてここのところ多くの作品をビッグバンドのフォー
マットでCDを出しているのだが、作風や和音感覚がきわめてこの作品と共通している。
つまり、スタイルが違っていても優れたトロンボーン奏者が作曲、編曲をしていくと
ここに到達するのだろうか?
彼はトロンボーン演奏以外にヨーロッパのフリージャズ界においてコンサートの企画
を含めたフリージャズシーンの普及、オーガナイズに一役を買っていたので彼の残し
た功績はきわめて大きい。





posted by YM at 12:27| 東京 ☀| レコメンド | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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