2012年05月04日

Scenes from a dream / Chris Minh Doky

ベトナム人の父とデンマーク人の母を持つベーシスト、クリス・ミン・ドーキーの2009年に録音されたアルバム。ラリー・ゴールディングス、ピーター・アースキンとのトリオにヴィンス・メンドーサの編曲によるメトロポールオーケストラが背後を固める。オーケストラが全面に出ることはなく、ピアノトリオの空間を生かした抑制の利いた素晴らしい作品。デンマーク民謡やベトナムの歌も収録されているが、彼が育って行く過程で意識せざるを得なかったであろうアイデンティティの象徴のようにもとれるこれらのトラディショナル曲は彼のフィルターを通して素晴らしい仕上がりになっている。とにかく内省的で美しく深いアルバムだ。



1999年に発表された「Minh」というアルバムでの参加ミュージシャンが
デイヴィット・サンボ−ン(as)
マイケル・ブレッカ−(ts)
ランディ・ブレッカ−(tp,vo)
レニ−・ホワイト(ds)  マイケル・ブラント(ds)
ハイラム・ブロック(g)  マイク・スタ−ン(g)
デイヴィット・ギルモア(g) 
ジョ−イ・カルデラッツォ(p)
リッキ−・ピ−タ−ソン(key) ジム・ベア−ド(key)
レイラ・ハサウエイ(vo) ダイアン・リ−ブス(vo)
というような布陣でもわかるように、とてもポップなコンテンポラリーなジャズサウンドになっている。
つまり彼は「Scenes from a dream 」のようなシリアスでアコースティックなジャズと「Minh」のようなキャッチーでポップなサウンドをアコースティックベースで表現出来る希有なミュージシャンだと断言出来る。



「Scenes from a dream」はとにかく繊細で1音1音を大事に演奏しているということがわかるアルバムで、これほど1音1音が「意味」を持つ演奏もめずらしい。故に静かな空間で一人でゆっくり聴いて欲しい。

再度言うが、こんな美しくて内省的なベーシストのアルバム聴いたことない。

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2012年04月23日

Radio Music Society / Esperanza Spalding

2011年にグラミー最優秀新人賞を獲得したベーシストでありボーカリストであるエスペランサの3作目。最近聴いた新譜ものとしてはダントツに大好きなアルバムです。耳障りがいいが決してイージーではなくとても上質です。キャリアのスタートはジャズベーシストとしてです。また彼女がベーシストとして影響を受けたミュージシャンにデイブホランドを挙げたりウエィンショーターを尊敬していると言って憚らないあたりは、彼女はかなり気骨があり、ちょっとクセのあるミュージシャンだということが判ります。ある種ホランドはジャズという分野においても玄人うけするタイプで「内省的」「地味」という印象を持ちますが、彼女のサウンドはいい意味で「ポップ」だと思います。
全ての曲の編曲と12曲中の10曲が 自身による作詞・作曲ということでプレイヤーとしての資質もさることながらライティングのセンスの良さも特筆すべきことです。
本作はかなりR&B寄りのサウンドなので本作を聴いて彼女のキャリアを知ると驚くでしょう。



BGMとして聴きたい方から「音楽うるさ型」まで全てのリスナーを満足される最近稀な素晴らしいアルバムだと思います。

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2012年03月22日

セロニアスモンクのラージアンサンブルもの2枚

セロニアスモンクは誰もが認めるユニークでオリジナリティ溢れる希有なジャズピアニストであり作曲家ということは改めて言うまででもありません。
彼の作曲した曲は実に個性的で彼以外のどんなミュージシャンがどんな形態でどんなアレンジで演奏しようとも「モンク」っぽくなります。なので彼の曲はスタイリッシュという表層的な次元ではなくもっと根幹的な部分で個性を出しているように感じます。彼の日頃の演奏と曲は密接的な関係にあると思います。

モンクは沢山の傑作を世に出していますが、個人的には彼のソロ(独奏)作品が大好きです。それは純度100%モンクだからです。実際、他のジャズピアニストよりもソロ作品が多いのは本人の意識によるものも大きかったのではないでしょうか?もちろんピアノトリオやフロントに1〜3人の管楽器を配する編成でも十分彼の演奏、楽曲の「旨味」を出すには十分だったのだと思います。

モンクのアルバム作品を見た時に、2枚だけラージアンサンブル(大編成)ものがあります。これはちょっと他の作品とテイスト、コンセプトが違うのでなかなか彼の代表作として取り上げることはないのですが、別の角度から、つまりモンク本人が演奏する「モンクの作品集」として着眼するととても興味深い作品だと思います。

その作品とは「The Thelonious Monk Orchestra ar Town Hall」と「Monk's Blues」です。

「The Thelonious Monk Orchestra ar Town Hall」はタイトル通り1959年タウンホールでのライブレコーディングです。チューバやフレンチホルンを配した、ギルエヴァンスオーケストラを想起される編成です。2年前の1957年にギルは「Gil Evans and Ten」というアルバムを作っていますが、タウンホールの編成のアイディアに関してはこのアルバムの影響がないとは言えないと思います。しかしながら実際のサウンドはギルのサウンドとはかなり異なります。本作でのアレンジはピアニスト、Hall Overtonによるものですが、察するにモンクやレーベルプロデューサーからの(ビッグバンドではないユニークな)編成の発注があり、それを、あまりチューバやホルンといったジャズではあまり馴染みのない楽器を使いこなせなかった、若しくは自由にアレンジを書かせてもらえなかった事情があったのではなかったのでしょうか?とはいえモンクのフレーズを管楽器群にトランスクリブした「Little Rootie Tootie」
でのソリは圧巻です。当時、アンコールでも再び本編で演奏したこの曲を演奏したということを見ても、この曲がこのコンサートに於けるハイライトだったということが言うまでもありません。




そしてもう1枚は「Monk's Blues」は1968年スタジオ録音。こちらはレギュラーサイズのビッグバンド編成です。アレンジはオリバーネルソン。いわゆるアレンジャーとしてのプロ中のプロです。本作でも彼のペンが冴え渡っています。アンサンブル要員として若きアーニーワッツ、トムスコットもいて興味深いです。オリバーネルソンのペンの特徴はコンテンポラリーで緻密でありながらとてもキャッチーでポップ(難しく聞こえない)だと思っています。本作はマイルスデイヴィスと「Sketches of Spain」「Pogy and Bess」「Kind of Blue」等のヒット作でタッグを組んでいたテオマセロがプロデューサーとして関わっているので、本作の制作に於いて、モンクのユニークさと「ポップ」感を出す為にアレンジャーをオリバーネルソンを配したのもテオのアイディアだと思います。マイルスがあれほど「アーティスト」として評価されたのも常にテオのプロデューシングや編集のアイディア、テクニックがあったからこそというもの今となっては周知の事実です。本作の裏ジャケットにはテオ、オリバーネルソン、モンクの3ショットのスナップが掲載されているほどテオの存在は大きいのだと思います。
本作はモンクとバンドのコントラストがとても面白いです。ある意味においてそれらは「水と油」で溶け合うことはないけれど、その分離が実にモンクというアーティストを象徴しているようでもあります。タウンホールよりも一層モンクのソロアルバムではなく、モンク本人演奏によるモンク作品集という印象を強く持ちました。

要約すると、本作は確固たるサウンドを持っているモンクに対してスコアの緻密さを得意とするオリバーネルソンがモンクのサウンドの余白を目一杯、音符で構築しているというモンクとオリバーネルソンの対比のドキュメントではないでしょうか?



この2枚、前者は東海岸ニューヨーク、後者は西海岸ロスアンジェルスでの録音なので風土、文化圏の違い、ミュージシャンの違いをハッキリ見ることができるという点でも比較するには面白いと思いました。

いわゆるうるさ型(音楽的感性が優れているという意味ではなく、ミュージシャンデータベースが豊富にありそれを独自に考察する人のこと)にとって、「Monk's Blue」はチャラくて薄い音楽だと思われる方もいるかと思いますが、今回の記述でも分りますが私個人的には大好きな1枚です。構築していくやり方もジャズの1つの方法だと思いますので。

余談ですが、モンクの代表曲「Blue Monk」にひっかけて付けられた「Monk's Blue」というアルバムのタイトルは安直ではありますが、モンク自身はこのレコーディングを楽しめていたかどうかは分らず知る由もないので、もしかしたら彼の心情も込めて付けられたタイトルだとしたら更にペーソスの効いた作品ですね。

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2012年01月21日

Step Into Our Life & Prime Time / Roy Ayers & Wayne Henderson

以前にも書いたことがありますが、ウェインヘンダーソンのアルバムを、私がクラシック一辺倒だった高校生の頃に初めて聴いてトロンボーンもジャンルを超えて映えるということを感じました。それによってクラシック系志望からジャズ、ポップス系志望と変わったのです。そのことについてはこちら

その彼のアナログ音源がついにCD化されたのです。しかも2in1、しかも両方ともロイエアーズと双頭アルバムです。まさにこれを高校生の時に聴いていたので、私にとって、とても大きな節目の機会を作ったメモリアルなアルバムです。とにかく当時聴いていてそのオシャレでアダルトなサウンドにメロメロでした。ロイエアーズのビブラホンとウェインのトロンボーンのサウンドのマッチングがスゴくいいです。洗練された都会的なサウンドです。またジャズクルセイダーズのアルバムよりももっとソフィスティケイトされていると思います。バックトラックのグルーヴ具合も素晴らしいく今聴いてもとてもHipです。これ系のサウンドってもしかしたら、このアルバムの時代から進歩していないのかもとも思える程です。前回紹介した、Raul De Sauzaの初CD化もそうでしたが、このCD発売も実に嬉しいです。

バカテク系、フルバン系のトロンボーン奏者の演奏を追いかけてばかりいる人に、騙されたと思って一度聴いてもらいたいと思います。音楽的センスの高い人ならば、これは絶対気に入ると思います。もちろん、音楽にあまり詳しくなくても非常に耳障りのいい音楽なので絶対楽しめます。カフェ音楽として聴いても絶品です!



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2011年12月18日

THE TROMBONES INC

1958年の録音された前代未聞のジャズ系トロンボーンラージアンサンブル。このアルバムが興味深いのは当時のLPでA面がアメリカ東海岸、B面が西海岸のジャズ系スタジオ系トロンボーン奏者で演奏していることです。演奏やアレンジがそれぞれの特徴が如実にサウンドに現れていています。どの曲も10人のトロンボーン+ピアノトリオの編成ですが実際はリハーサル要員だったり曲によって若干メンバーが違うということもあって実際にこの録音に携わったトロンボーン奏者は30人以上だと思われます。JJ.ジョンソンはレコード会社の契約の関係で演奏には参加していませんが、編曲者として参加しています。

この音源は私が高校生の頃、つまり30年前にLP盤としてラッキーにも手に入れることが出来て、それ以来、自分にとっての1つのバイブルとなっていましたが、なかなかCD化されることがなくこれを知らない人は非常にお気の毒だと思っていました。

そしてここ1、2年前にCD化されて本当に嬉しく思っています。ジャズ系トロンボーンラージアンサンブルの音源に関して、これより優れているものはないと断言します。

このアルバムにはジャズトロンボーンに於けるあらゆるスタイルが網羅されています。バップ系は勿論のこと、特にスィート系に関しては絶品です。当時のレコーディングですから、多少の編集はあったとしてもアンサンブルもソロも同時録音でしょうし、ソロだけやり直すということもないハズです。それでこのクオリティですから驚愕です。

企画だけ見ると巷に溢れている「安い」「易い」バトルものに見られがちですが、実際はそんなことは一切無く非常にバランスのとれた作品だと思います。西海岸VS東海岸というのはバトルというニュアンスではなく、文化の比較となっていると思います。

西海岸と東海岸のどちらが好みかということに関して、当時の高校生の私と今の自分と若干変化していて、それも非常に興味深いです。

このアルバムの企画立案、実行したのは、レコード会社社長の一存だったようですが、彼はもともと金管楽器奏者だったからこそ実現したかも知れません。しかし、本当にこの文化的な貢献に感謝です。



East Coast:
Eddie Bert,Jimmy Cleveland,Henry Coker,Bennie Green,Milba Liston,Benny Powell,Frank Rehak,Bob Brookmeyer,Dick Hickson,Bart Varsalona,Bob Alexander(trombone),J.J.Johnson(arranger)

West Coast:
Marshall Cram,Herbie Harper,Joe Howard,Ed Kusby,Dick Nash,Murray McEachern,Pullma"Tommy"Pederson,Frank Beach,Gerge Roberts,Ken Shroyer,Milt Bernhart,Bob Fizpatrick,Joe Howard,Lewis McGreery,Frank Rosolino,Dave Wells,Bob Brookmeyer(trombone)

個人的には当時人気のあったスタンケントン楽団のトロンボーンセクションが丸ごと参加している西海岸のトラックのアンサンブルのまとまり具合やそのケントン楽団のソリストだったロソリーノ、ジョージロバーツ、そしてヘンリーマンシーニのレコーディングでは欠くことが出来ないディックナッシュのソロが特筆ものだと思います。

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2011年12月09日

Lost Album / Fred Wesley & The J.B.'S

1970年代のJamesBrownのサウンドを作っていたFred Wesley率いるThe J.B.'sの1972年にレコーディグしたにも関わらずお蔵入りになっていた音源がついにリリース。
The J.B.'s名義とはいえニューヨークの若手スタジオミュージシャンが多数参加してる。
Randy Brecker (trumpet)、Michael Brecker (sax)、Joe Farrell (sax)、Eddie Daniels (sax)、Steve Gadd (ds)、Ron Carter (b)
とはいえ、特にランディ以外のホーン隊は際立つソロを演奏しているわけではなくセクション要員。恐らくその辺りの縁でフレッドやメシオパーカーというJBホーンズがハニーホーンズという名でブーツィーコリンズ関係のレコーディングでソリストとして参加している時にセクション要員としてブレッカーブラザーズが参加してると思われる。フレッドとランディはお互いがファンだとお互いから話を聞いたことがある。実際、数年前のランディのソロアルバムでフレッドが参加している。余談だが、フレッドはある時期カウントベイシー楽団に在籍していたこともあり、その一員として日本での公演も参加し、それはライブアルバムとしてリリースされている。

最近も積極的にソロアルバムをリリースしているフレッドだが、ファンクは勿論のこと、いろんなサウンドにトライしている。本作でもいわゆるビッグバンド編成で早いスィングでのジャズテイストに溢れたテイクやシャッフル、8ビートのテイクもあるが、どのトラックも通常の
J.B.'Sよりもかなりタイト。それはニューヨークスタジオミュージシャンの参加の比率が高いからだと思われる。

特にフレッドのアレンジが秀逸で彼がジャズ方面へ活動をシフトしていたとしたら間違いなくビッグバンドのリーダー、アレンジャーとしても君臨していたに違いない。とはいえ、彼がJ.B.'Sの路線を変えなかったことでファンクのトロンボーンのスタイルが確立された。

いずれにしても才能、タレント性を併せ持つプレイヤーはどんなフィールドに居てもイノヴェーターになるという1つの証明がこのアルバムに凝縮しているように思う。その才能を高く評価して、このプロジェクトを提案し自らプロデューサーとして関わったジェイムスブラウンはやはりスゴい。

余談ではあるが、この頃、フレッドの使っていた楽器は細管テナーで現在は太管テナーバスだが、このアルバムと最近のアルバムでの彼のトロンボーンの音の太さ、音色、音質があまり違わない。




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2011年09月28日

Jazz Trombone: For Intermediate and Advanced Players / Jiggs Whigham & John Kember

ジャズトロンボーン奏者、ジグスウイグハム著作の「ジャズトロンボーン」の演奏に関する一冊。トロンボーンの基礎的な奏法についてではなくあくまでもジャズというカテゴリーにおけるヒントが満載です。特に興味深かったのはビッグバンドのトロンボーンセクションにおけるスタイルごとのフレージングやアーティキュレーションを具体的にピックアップし解説とともに模範演奏やカラオケの音源、映像が含まれていることです。セクションに関しては「Glenn Miller」「Stan Kenton」「Woody Herman」「Count Basie」「Tommy Dorsey」のサウンドスタイルに乗っ取ったサンプルの演奏、スコアは非常に解りやすく勉強になります。(因みにこのサンプルの作編曲はジグスではありあせんが)今までこうやってビッグバンドのトロンボーンセクションをスタイルごとに体系付けしている教材はなかったと思います。

特に先日もブログ上で書いた「Urbie Green」に代表されるスイートものに関しては「Tommy Dorsey」スタイルの項目を見ればフレージング、ヴィブラートなど一目瞭然で解ると思います。
スイートスタイルは現在の音楽シーンでは主流派とは言い難く、ヘタをするとこのスタイルが後世に継承されないのではと危惧しているので、こういった資料はとても貴重なものだと思います。(ジグス自身もある意味において最後のスイートスタイルのリアルタイム経験を持つ現役のジャズプレイヤーだとも言えます。)



ということでジャズトロンボーン奏者にお薦めの一冊です。

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2011年09月02日

HIS BIG BASS TROMBONE ’MEET MR. ROBERTS’ AND HIS SEXTET ’BOTTOMS UP’/GEORGE ROBERTS

言わずと知れた「Mrバストロンボーン」ことジョージロバーツのソロアルバムの2in1での初CD化。これは非常にめでたい。CD化されるまでは、世のバストロ吹きが中古アナログレコードを血眼になって探していた音源が一挙に二枚まとめてリリースとは。しかもかなり安価。恐らく中古アナログレコードは高価だったハズ。

彼のキャリアは素晴らしくスタンケントン楽団の一員として活躍し、彼のフューチャー曲がある程さ楽団には欠かせないプレイヤーだった。また無数のレコーディングセッションに参加している。代表的なものはフランクシナトラのセッション(ネルソンリドル編曲)によって彼がフューチャーされている。彼の存在有りきで編曲が施されているという事はそのサウンドを聴けば一目瞭然で、それだけ彼の演奏が飛び抜けて個性的で素晴らしかったということ。
こののCDは「Meet Mr.Roberts」「Bottoms Up」の二作が収録されているが、個人的には前者のアルバムが非常に自分の好み。当時の仕事仲間である、テナートロンボーン奏者のロイドエリオットやトミーペダーソン、ホルン奏者のビンセントデローサを含む7人のローブラスのアンサンブルが秀逸。リズムセクションもピアノではなくビブラホンを配していることが非常に効果的。ビブラホンはピアノよりも音の立ち上がりは早いがロングトーンが厚ぼったくならないのでローブラスとの対比がいい。いい意味でスペースがたっぷりしている。彼はアドリブプレイヤーではないので、こういった緻密なアレンジでのプレイが映える。

後者の作品は打って変わってワンホーンのアルバム。とは言ってもアドリブバリバリというわけでなく、淡々とメロディを奏でている。しかもコンボ演奏なのにも関わらず、指揮者、編曲者が存在する。アルバムクレジットにはコンダクト&アレンジにはジョンウィリアムスとなっている。そう、あのジョンウィリアムスだと思われる。と言うのもジョンウィリアムスのジャズピアニストとしてのソロアルバムはリズムセクション+4トロンボーンだったのだから。

前者が1959年、後者が1960年の録音。彼の使っている楽器はシングルロータリー。ロータリーシステムの発達は近年目を見張る程の進歩を遂げているが、こんなに「歌う」バストロンボーンは彼の出現以降はあまり聴いたことはない。テクニシャンは増える一方だけれども。




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2011年06月21日

The Orpheus Suite / Colin Towns Mask Orchestra

英国作曲家Colin Townsのビッグバンドの2007年のアルバム。Bohuslan Big Band and Colin Towns with Nils Landgrenのコールポーター集での彼の存在を知り早速彼のソロ名義の音源を購入したうちの一枚。(他にもマイルス、フランクザッパ、ジョンレノンのカバー集などをリリースしている。)
彼の書くサウンドはある意味「非・ジャズ」でクラシック的でもなく、敢えて言うならばプログレッシブロック的なアプローチをビッグバンドでしているように思える。そして「非・米国サウンド」。とてもブリティッシュな印象のサウンド。和声はコンテンポラリージャズにあるような響きがあるが、激しく移り変わるわけでなく、和音の印象はゆったりしている。そのかわりオーケストレーションがかなりユニークで各セクションのリズムの噛み合わせが多く非常にリズム面で立体的。定位を考慮したアレンジになっているので非常にステレオフォニックなサウンドになっている。リズム隊もホーン隊もリズムのキレがいいのでビッグバンドということを忘れてしまう程だ。曲によってはカーラブレイっぽいサウンドをよりアグレッシブ、メカニカルにしているような印象を持つ。管楽器奏者としての意見としてはマリアシュナイダーの書くPad的なアプローチのアレンジよりはよほど演奏していて楽しいと思われる。しかし、テンポが早くて変拍子やパラリドル的で、各楽器との細かな噛み合わせが多い彼のアレンジは練習しないと難しそう。

彼のサウンドがユニークなのは、彼の普段のキャリアの立ち位置が「非・ジャズ」ではなくいわゆる商業音楽であるから故だと思う。また逆の見方をすれば彼の才能の範疇が「ジャズ」に納まらない結果が映画、テレビドラマ、アニメ、芝居の音楽のスコアを書くことになったのだろう。また、彼の書く「非・ジャズ」のキャンパスの上で「米国ジャズ」に影響を受けているプレイヤーのソロが浮遊するのが何とも奇異な感じで面白い。



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2011年06月13日

Don't Fence Me In - The Music of Cole Porter / Bohuslan Big Band and Colin Towns with Nils Landgren

ボーヒュースレン・ビッグバンドは、スウェーデンの国と西ヨータランド県の出資で運営されている音楽振興財団ミュジーク・イ・ヴェストにより運営されて現在ニルスラングレンが音楽監督を務めている。日本に於いてはネームバリューこそはあまりないが世界中を音楽振興の一環としてツアーをしている。実際、数年前にバンドが来日した際にニルスから連絡があり、それでこのバンドを知ることになる。ニルスからの連絡はこのバンドのライブに遊びに来ないか?というお誘いだった。我々の世界で「遊びに来ないか?」は一緒に演奏しようということと等しいので、案の上、数曲、ステージとバンドwithニルスと共演した。リハーサルもなくいきなり客席からステージに呼び出されたのでまさしくこのバンドを初めて聴くとともに初めて共演した。

このバンドは多くの作品をレコーディングしているが、どの作品もコンセプチャルなものでいわゆる作家、アーティスト1人に焦点を当てたものばかりだ。そして今回の作品は「コールポーター作品集」。コールポーターとはアメリカを代表するミュージカルや映画の音楽の作曲家で数多くのジャズスタンダード曲の生みの親であり、多くのミュージシャンが「コールポーター作品」をリリースしている。それだけに、今回の敢えてコールポーターに焦点を当てるというのはかなり勝算がなければ作らないだろう。

そして実際のこの作品はスゴく斬新で最もアメリカっぽい題材をここまでオリジナリティ溢れるサウンドになっている「コールポーター作品集」は聴いたことがない。まさに現代の音がする。

この成功の要因はニルスがコリンタウンズ(Colin Towns)をアレンジャーとして起用したことだ。彼は映画、テレビドラマ、アニメのアレンジャー。いわゆるレッテルとしてジャズアレンジャーということではなさそうだ。守備範囲の広い仕事ゆえ、サウンドの引き出しが大きいことが、この「堅物・コールポーター」を見事に自分流に料理出来たのだと思う。

この作品を中心にバンドが演奏する時はコリンをコンダクターとして迎えているようで、これからはジャズオーケストラもクラシックオーケストラのようにコンダクターを迎え入れるようになることを臨む。ヨーロッパではWDRビッグバンド、NDRビッグバンド、メトロポールオーケストラなどがそれによって大きな音楽的な成果を出している。

この作品はアグレッシブで挑戦的なサウンドだ。非アメリカで非常にヨーロッパのジャズ事情を大きく映し出している。アメリカのビッグバンド、ヤバいぜ。

とにかくびっくりした。



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2011年06月05日

Boz Scaggs / Speak Low

いわゆるポップスシンガーのジャズスタンダード集。とはいえ決して安直なものではなく、かなり手応えのあるアルバム。ギルゴールドスタインがプロデュース、アレンジをしていることが大きく起因している。編成も含め、かなりギルエヴァンス色が濃く緻密で丁寧なサウンド。是非静かな所かヘッドホンでオーケストレーションを楽しんで欲しい。木管楽器、弦楽器のラインが素晴らしく小編成ではあるがかなりリッチなサウンド。ギル自ら弾くピアノ、ローズも非常に計算された最小の音使い。肝心のボズのボーカルも誠実で丁寧な発音、歌唱。まさにオトナにしか解らない究極な「引き算」の出来る「大人の音楽」。一見地味に聴こえるが何度も何度も聴けば聴く程味わいのするアルバム。



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2011年05月25日

芸術脳 (新潮文庫)/茂木 健一郎

様々な分野のクリエーターとの対談。クリエーターの端くれとしてこれは読まねばと。
この本に限らず同じ分野よりも異なる分野のクリエーターの考え方、価値観の方が自分にとってはヒントになる。それぞれの対談の中でかなり「ひっかかる」部分があり非常にタメになった。



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2011年02月05日

JAY&KAI/J.J.JOHNSON & KAI WINDING

ジャズ2トロンボーンにおけるバイブルと断言出来る1枚。

しかもこのアルバムがオリジナルアルバム「JAY&KAI」の他に6曲のボーナストラックも収録されている。これらは初CD化された1956年ニューポート・ジャズ祭でのライブ録音も含まれる。まだ今のように超ヒット作以外のCDによる復刻化がされていなかった頃、中古アナログ盤を求めて中古アナログレコード店をハシゴしていた私にとっては感涙もののボーナストラックだ。これらアルバムが当時市場価格として10000円前後だったと思う。当時、自分にとってはかなりの散財ではあったが音楽における自己投資ということで無理を承知で、JJ、Rosolino,Fontana関係は沢山中古アナログを買った。(新譜としてリアルタイムで買えなかった自分の世代にとって、それらの演奏はリアルタイムではなく「過去」のものだっとも言うことが出来る。)

おそらく20年前ほどになるが、幸運にもJJにインタビューする機会があり、色んな質問をした。もともと、このプロジェクトはレコード会社プロデューサーの発案でJJとBennyGreenの組み合わせでやるということだっが紆余曲折ありJJとKaiとの黒人と白人の組み合わせということになった。このたまたま黒人と白人の組み合わせになったのか、意図的なものなのかについてが失念してしまった。いずれにしてもBennyとKaiのサウンドはJJとは対照的だったのでBennyとの組み合わせも面白かったに違いない。BennyはよりアーシーでソウルフルだったのでJ&Bはより黒っぽいサウンドになっていたかも知れない。Miles Davisが「クールの誕生」のアルバムを作る際にリズムセクションを黒人を配したことで黒くなりすぎないように意図的に管楽器奏者を自分以外は白人を擁したという話は有名な話。

インタビューでアレンジした方が2ndトロンボーンパートを演奏しているということを指摘したら「よく解ったね」とJJが驚いていた。演奏も音楽観も違う優れた音楽家2人がお互いのトロンボーンを通して作られたサウンドは一過性のものではなく普遍的なサウンド。聴く人によっては今の時代においては「懐古的」なサウンドに聴こえるかも知れないが私にはそれは「懐古的」ではなく「普遍的」なものだと感じた。クラシック音楽がそうであるように、優れたものは時間軸関係無しにして遺っていくものだ。

フロントが2トロンボーンの編成のものはそれ以降機会があるごとに企画として取り上げられるが残念ながら私が知る上で音楽とトータルで見た時にJ&Kを越えるものはないように思う。
それはアレンジに関しても単なる2ホーンのヘッドアレンジではなく、きちんとリズムセクションにおいてもアレンジが施されていたり、トロンボーン二人が色んなミュートを使ったりしてかなりサウンドデザインに関して考えているからだと思う。

いわゆるピアノトリオをバックにフロント二人がメロディをシェアして、メロディでないパートが適宜にハモったりフィルインをするといったヘッドアレンジ(厳密にはアレンジとは言い難い。しかしその方法論を否定するつもりもない。)でのセッションは、ある意味顔見世興行的でもありフロントマン同士の「バトル」的な要素ばかりがクローズアップされがちでもある。そういう意味ではこのJ&Kは例えコンセプト先行で始まったとはいえ、インスタント的でもなく記録でもなく、「作品」として立派に成立している。



今一度ジャズトロンボーン奏者はこの辺りの作品を違った角度で検証すべきかも知れない。

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2011年02月02日

Fast City - A Tribute to Joe Zawinul/Metropole Orchestra&Vince Mendoza

オランダのメトロポールオーケストラが音楽監督としてヴィンスメンドゥサを迎えてから繰り広げられているフューチャリングゲストとのコラボレーションの質の高さは特筆に値する。最近ではジョンスコフィールド、イヴァンリンス、ブレッカーブラザーズとのものが記憶に新しい。この功績はヴィンスのアレンジ、ディレクションに寄るところが大きい。優れたパフォーマーである以前に優れたコンポーザー、アレンジャーであるゲストの作品をオーケストラ用にリアレンジすることはアレンジャーとしてやりにくいはずで、本来のサウンドの焼き直しレベルのものであればさほど難しいことではないがオリジナルの良さを損なわずにそこに「ヴィンス」色を注入するとなるとなかなか難しい。それをヴィンスは慎重に且つ大胆に行っている。
勿論オーケストラの演奏も素晴らしい。大所帯だとサウンドが「重く」「反応が鈍く」なりがちだがフレキシブルで反応のいい一面も表現出来る希有なオーケストラだと言えよう。

本作も含めて一連の作品はコンサート収録でありスタジオでのレコーディングよりレコーディング環境が難しい中でこれほどの高いクオリティの演奏が可能なのはオーケストラ自体がパーマネントでこういった活動をしているからに他ならない。

今回の作品はパフォーマーとしてのゲストではなく惜しくも2007年9月に亡くなった、ジョー・ザヴィヌル(以下JZ)の作品集である。




JZと言えばウェザーリポートをウェインショーター達と結成しエレクトリックジャズの先駆けとなったジャズの牽引者。後に加入したジャコパストリアスとの頃のウェザーリポートがある一つのピークでありジャズにに対する「答え」だったような気さえする。
JZの作品はオーケストレーションが緻密になっている部分とソリストが自由に表現出来るスペースが混在していることが大きな魅力で、それを本作でもヴィンスのアレンジはきちんと周到している。

もはやJZの作品はもともとオーケストラに書かれていたのではないかと錯覚するほど楽曲と演奏の相性がいい。そこにウェザーリポートでの朋友、ピーターアースキン、アレックスアクーニャ、JZのDNAを十分すぎる程受け継いでいるジムベアードが参加しているのだからこれほど強靭な「トリビュート・ジョー・ザヴィヌル」はない。

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2010年10月07日

エッセンシア/小野リサ 

1997年 リサさんと私の共同プロデュース。全編NYでのレコーディング。Toninho Hortaの楽曲を中心に普段の彼女の作品とは若干異なる質感。Tonihoサウンドを全面に押し出すということもあり、たまたま来日中だったToninhoとリサさん、私で密な打ち合せを行った。レコーディングメンバーは基本的に全て私によるもの。アレンジはGil Golidstern、Toninho、私で分担。

個人的にはBeijo PartidoでのMichael Breckerのソロが秀逸。



<参加メンバー>
Toninho Horta(Gt),Gil Goldstein(Pf,arr,cond),Yoichi Murata(Trb,arr,produce,cond)
Bob Mintzer(BsCl),Michael Brecker(Ts),Andy Snitzer(As),Randy Brecker(Tp)
Eddie Gomez(bs),Mark Egan(bs),David Fink(bs)
Paulo Braga(drs),Danny Gottolieb(drs)
The Dunn Pearson Orchestra

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2010年09月17日

All My Friends Are Here/Arif Mardin

トルコ出身のプロデューサー、アリフマーディンの遺作。手がけたアーティストはAretha Franklinから始まって、Carly Simon,Bette Midler, Barbra Streisand,Bee Gees, Diana Ross, Queen,Anita Baker, Phil Collins, Scritti Politti, Culture Club, Roberta Flack, Average White Band, Hall & Oates, Donny Hathaway, Chaka Khan,George Benson,The Manhattan Transfer, Modern Jazz Quartet, Willie Nelson,最近ではNorah Jonesのプロデュースが有名。このキャリアからわかるように守備範囲の広い仕事をしてきたという印象を持つ。そういった意味ではクインシージョーンズやデヴィッドフォスターとは一線を画すと思う。

本作は彼名義の作品ではあるが、2006年に彼が亡くなった後に、息子によって完成させたということで、収録曲全てが高い音楽性、豪華なボーカリストによるものになっている。
ゲストは、Bette Midler,David Sanborn,Dianne Reeves,Carly Simon,Norah Jones, Dr.John,The Bee Gees,Phil Collins,Hall&Oates,Lalah Hathaway,Randy Brecker..etc.




よくありがちなゲストてんこ盛りな顔見せ興行の様相は一切無く一貫した大人の落ち着いた音楽なので一作品として素晴らしい。

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2010年09月08日

Time Remembered/Bill Evans

いわゆる未発表曲を集めた作品。とはいえ、アウトテイクということで演奏のクオリティの問題で今まで発表されなかったわけではなく、アルバムの収録曲のバランスによる理由で当時のアルバムには収録されてなかった思われる。

もともとBillEvansは大好きなピアニストなので比較的多くの彼のアルバムを聴いているが、本作はボクのBill Evansの大好きな「繊細さ」「弱さ」が突出していて大好きなアルバムの1枚だ。

特に前半に収録されている曲は、彼の相棒、スコットラファロの突然の死の後のピアノ独奏で彼の心の葛藤が演奏に見て取れるような気がする。

1曲目の「ダニーボーイ」は圧巻だ。こういったフォークソングは自分が30代までは聞かなかった。というよりはあまり好きではないカテゴリーだったが、40代になり自分のカラダに沁みるようになった。

自分の敬愛するジャズメン達は、時としてこういったフォークソングを演奏しているがその時はまるで意識してなかったが、最近はとにかく心に引っかかる。

それは自分が変わっていっているということだと思う。

BillEvansのピアノは耽美的であり、抽象画のようだ。それは右手でがガシガシ細かなフレーズを弾きまくるのではなく、右手でメロディックなソロを演奏している時の左手の伴奏の付け方が極めて知性溢れて、立体的だ。だから敢えていうならば彼の左手のアプローチが大好きだ。ヨーロッパの音楽(特にフランス近代)をよく聞いて昇華しているカンジがよくわかる。

ジャズにおいての、自分自身の音楽の嗜好、志向がかなり黒人文化圏の音楽に偏ってきているのにも関わらず、このBill Evansの音楽だけは好きだ。



彼の「破滅型」な音楽、人生に惹かれるのかも知れない。

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2010年08月15日

金管奏法のカリスマ アーノルドジェイコブスはかく語りき

非常に核心を突く金管楽器奏者の為の本。自分にとってのバイブルになりそうな予感。

安易に「これでハイトーンが出る」的な怪しさは一切無く、非常に妄信的にならず客観性をもって深く考えることが出来る。よって、読む側にはある程度の音楽、社会性の成熟度が必要とされるかも知れない。



プロに是非お薦め。

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2010年08月13日

Ballade/山本浩一郎

彼はシアトル交響楽団首席トロンボーン奏者。彼がまだメトロポリタンオペラ管弦楽団に在籍していた頃に彼のリサイタル用に依嘱した私の曲「アンザイアティ」が本作に収録されています。



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2010年07月26日

TANGENCE/J.J.Johnson

かつて僕は1回だけJ.Jに会ったことがある。それはJazz専門誌のインタビュアーとして1時間ほど彼の滞在先のホテルの部屋でのこと。
あまりイメージ出来ないかも知れないが、私が20代後半になってあまりトロンボーン奏者の演奏に興味が無くなっていた中ででも常に聞いてたのは彼やロソリーノだった。J.Jは作編曲にも長けていた為に、彼が書いたビッグバンドのスコアを採譜したりもしていた。

実は最初、彼の来日に合わせてインタビューを出版社がしたところ、断られることになる。それは彼の愛妻Vivianがその直前に亡くなれたためによる傷心、落ち込みでインタビューどころではなかったということだったらしい。そして翌年になり2度目の依頼でインタビューが実現した。

彼といろんな話をしていて僕が感じた彼の印象は「頑固で意地っ張りで傷つきやすく、繊細」だった。

いわゆるスタジオ録音での作品の中での彼のキャラクターとしては実にクールで如才ないというイメージだが過去のライブ音源を聞くととても熱い演奏を繰り広げていて、スタジオ盤しか聞かないと彼のキャラクターを勘違いしてしまうかもしれない。

彼の作品は彼の妻が亡くなった後に発表された妻の名前をタイトルにした「Vivian」で大きく変わった。それはいわゆるテクニックごり押しではなく、フレーズは抑制されている。が、それがかえって非常に情緒の豊かなトロンボーンになっている。

その後に発表されたのが、この「TANGENCE」。これはロバートファーノンというイギリスの映画音楽作曲家のアレンジでストリングスを含むオーケストラをバックにして比較的ゆっくりな曲調のものを取り上げている。

正直言って、この作品は最近まで自分の愛聴盤ではなく、僕にとっての彼の作品における愛聴盤はスマートでエネルギーに満ち満ちていた頃のコロンビア時代のスモールコンボのものが中心だった。

しかし今日、たまたまi-Tunesでシャッフルしている中、この作品の曲を耳にして、耳が釘づけになった。それはかなりの衝撃だった。J.Jの音が重くて切ないのだ。これは明らかに、作品ではなく聞く側の自分側が変容したということだ。これは、嗜好が変わったのではなく、自分の精神的内面が部分が色んな経験を経て変容したのだと実感した。この音源を再び聞くことが出来て本当にラッキーだった。

このJ.Jのサウンドの重さ、切なさは彼がソリストを努めたビリーホリディの「LADY IN SATIN」でのビリーホリディの歌唱を聞いた時の印象と同じだ。



ロバートファーノンの編曲も素晴らしい。

こういう演奏はたとえJ.Jといえども彼が30、40代では出来なかったと思う。やはり生き様が演奏に反映されるのだと思った。

自分がストレートジャズのアルバムを作らない理由はそこにあり、もしもスタンダード曲中心のアルバムを作るとしたら40代後半か50歳過ぎてからと自分が20代の頃から決めている。

posted by YM at 14:10| 東京 ☀| レコメンド | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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